「えっ……?」
言っている意味がわからず、固まったままめぐちゃんを見つめる。
(誰と話してるのって……どういう、意味……?)
困惑したまま視線を目の前に移すと、悲しそうに小さく微笑む大ちゃんがいた。
「……私達、もう浩一の家に行くから。終わったら来てね。……それじゃ、後でね」
沈黙したままでいる私達にそう告げると、少し心配そうな顔を見せるめぐちゃん。
教室を出て行こうとするも、一度立ち止まって振り返ると、何か言いたげな顔をして私達を見ている。
それでも、結局何も言わずに黙って背を向けためぐちゃんは、そのまま静かに教室を後にしていったーー。
ずっと黙ったままめぐちゃんを見送った私は、ゆっくりと首を動かすと目の前の大ちゃんへと視線を移した。
相変わらず悲しそうな顔を見せ続ける大ちゃんに向けて、小さく震える声で話し掛けてみる。
「大ちゃん……。誰と話してるのって……どういう意味だろ……?」
カタカタと震える手をキュッと握り締めると、答えを求めて大ちゃんを見つめる。
そんな私から視線を逸らすと、黙って俯いてしまった大ちゃん。
その姿を見て、再び私の中で生まれはじめる小さな不安。
そんな不安に押し潰されそうになりながらも、震える手を大ちゃんに向けてそっと伸ばしてみる。
ーーー?!
「……えっ?」
大ちゃんに触れたはずの私の手は、そのまますり抜けるようにして宙を舞った。
「なん……で……っ?」
驚いた私は、自分の手をただ呆然と見つめた。
「……ごめん。ひよ、ごめん……っ」
小さく震える声に反応してゆっくりと視線を上げてみれば、私を見つめる大ちゃんと瞳がぶつかった。
大ちゃんの瞳からは大粒の涙が流れ、とても辛く悲しそうな顔をしている。
「ずっと、待たせてごめん……」
泣きながら謝る大ちゃんの姿を見て、まるで心臓を鷲掴みにされているかのように胸が苦しくなる。
「俺……っ。ずっと、ひよの事探してたんだ……」
(そんな訳、あるはずがない……っ)
私は椅子から立ち上がると一歩後ずさった。
(嘘……っ嘘……っ!)
「まさか、学校にいるとは思わなくて……。ずっと一人で、待たせてごめんね」
涙に濡れた顔で悲しそうに微笑む大ちゃん。
私は震える自分の手を見つめると、今日あった出来事を一つ一つ思い返した。
先程、めぐちゃんに言われた言葉。
音楽室で不思議そうな顔をしていた瞳ちゃん。
タイムカプセルを開けた時の皆んなの笑顔と会話。
そして、初めから感じていた違和感。
そうーー
私は、大ちゃん以外と目も合わせていなければ会話もしていなかった。
チラリと窓に視線を移すと外はもうすっかりと陽が落ち、教室の灯りでまるで鏡のように私の姿を映し出している窓硝子。
(あぁ……。そうだったんだ……っ)
高校生になった話し。
廃校の話し。
タイムカプセルを掘り起こす話し。
大ちゃんから聞かされるその話しは、どれも私にはよくわからなかった。
窓硝子に映った自分の姿を見て、その理由がようやくわかった。
幼い顔で涙を流すセーラー服姿の小さな自分を見て、私は小さく微笑んだーー。
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