シェアハウス【完】

 前の話

次の話 
※※※





(……大丈夫。少し、確認するだけーー)


 コクリと小さく唾を飲み込むと、目の前のノブに手を掛ける。


 ーーあの日。
 ピアスの飾り部分を見つけた私は、北川さんに連絡してみようかとも考えた。

 けれど、なんの確証もない。それどころか、そのピアスの飾り部分でさえ、今、私の手元にはないのだ。


(何か、他に手掛かりがあればーー)


 そう考えた私は、珍しく静香さんが家にいないタイミングを見計らって、部屋の中を確認してみることにした。

 最近自分の身にあった出来事や香澄の事が気になり、私はここ数日悶々としていた。


(この部屋の中を見れば……。何か、わかるかもしれない)


 そう思った私は、ゆっくりとノブを回し扉を開いた。

 部屋の中へと入ってゆくと、そこには大きなシルバーの箱が床にポツンと置かれている。
 周りを見渡してみても、この部屋にはそれ以外に何もない。

 ゆっくりと箱へと近付いてみると、ブーンと小さな機械音が聞こえる。
 よく見てみると、それは大きな冷蔵庫のようだった。


(……平置きタイプの、冷蔵庫かな。洋画で見た事あるかも……)


 趣味の部屋だと言っていたし、静香さんは料理が趣味だとも言っていた。
 そんなことを思い出しながら、三つある鍵を開けて蓋に手を掛ける。

 少し重たいその蓋をゆっくりと開いてゆくとーー徐々に見えてくる、箱の中身。
 冷んやりとした風が中から漏れ出し、私の身体に冷気が触れてゆくーー。



ーーー!!!!?



「ヒッ……!!!?」


 掴んでいた蓋から手を離すと、ドスリと床に尻もちを着く。
 身体からは一気に血の気が引き、決して寒いわけでもないのにカタカタと震え始める。

 開かれた蓋の先に見えるのはーー。

 バラバラにされた、人の身体。


「……ヴッ……」


 突然の吐き気に、口元を抑える。

 凍らされて入っていた、いくつかの身体。
 その上に、ゴロリと転がる2つの頭部。
 

(目が……合ってしまったーー)


 あれは、香澄ーー。


 涙を流しながらも、ズリズリと後ろへ下がってゆく。
 立ち上がって今すぐにこの場から離れたい。そう思うのに、全く身体に力が入らない。

 そのままズリズリと後ろへ下がっているとーートンッと何かが、私の背中に触れた。

 震える身体で、ゆっくりと後ろを振り返ってみる。そこに見えてきたのは、スラリと伸びた綺麗な脚。
 その脚を辿って、ゆっくりと見上げてみるとーー。


「あ……っ、……ぁ゛」


 その先に見えてきた人物の姿に驚き、声にならない声を漏らしてガタガタと震える。

 そんな私を捉えた静香さんは、ゆっくりと口元を歪ませるとニタリと微笑んだ。


「真紀ちゃんは、悪い子ね……。私のいない間に覗くなんて、ダメじゃない」


 ガタガタと震えながら、涙を流して静香さんを見上げる。
 恐怖でカラカラになってしまった喉からは、もはや声すら出てこない。


「美味しかったでしょ? 沙也加ちゃんと……香澄ちゃん、だったかしら。……真紀ちゃん、美味しそうに食べてたものね」


 恍惚こうこつとした表情で、舌舐めずりをしてみせる静香さん。


(っ……私が、美味しいそうに……食べ……た……っ?)


 今まで出されてきた夕食の数々が、私の頭の中で一気に蘇る。


「ヴッ……ぐぇェ……っ……!」


 私は堪らず、嘔吐した。


(あれ、は……っ。私が毎日……食べ、ていたっ、食事は……っ)


 そこまで考えると、私は再び嘔吐する。
 止まらない吐き気と悪寒に、もはや呼吸さえまともにできない。


「……真紀ちゃん」


 私の目の前で腰を屈めた静香さんは、私の頬を優しくなぞると嬉しそうに微笑む。


「早く食べたくて、仕方がなかったの。楽しみだわーー」


 恍惚こうこつとした表情で舌舐めずりをした静香さんは、恐怖に震える私を見つめてニタリと妖しく微笑んだのだったーー。






※※※






【女性限定シェアハウス。家賃3万】


 ネットで見つけた、たった一行だけの短い文。
 それを見た私は、怪しいと思いながらも隣にいる美咲に携帯を見せてみる。


「ねぇ。ここ……、どうかな?」

「えー。安すぎて怪しくない?」


 画面を覗き込む美咲は、そう言って怪訝そうな顔をする。


「だよね……。でも、一応電話だけしてみようかなぁ」

「辞めた方がいいと思うよ」

「うん……。でも、一応。電話してみて、変な人だったら辞めるし!」


「絶対怪しいって」と言う美咲を横目に、記載されている番号に電話を掛けてみる。
 規則正しく流れる呼び出し音は、プッと短い音を鳴らすとその先にいる相手へと繋がった。


『ーーはい』


 電話口から聞こえてきたその声はーー。

 とても穏やかで、優しそうな女性の声だった。









ー完ー



0