ーー翌日。
告別式の受付が開始される中、やっと手の空いた俺は煙草を吸いに外へと出た。
煙草に火を着けようと何気なく受付を流し見た、その時ーー
懐かしいその人物の姿に、思わず右手が止まった。
十年経っても、記憶の中の姿と変わらないその可憐さにーー俺は思わず、見惚れてしまったのだ。
この田舎で、俺に優しく接してくれた人と言えば、祖父母と母親以外では、彼女だけだった。
ーー河原美香。
そうーー彼女は、俺の初恋の人。
俺の視線に気付いた彼女は、その場で軽く会釈をすると俺の元へと歩み寄った。
「……この度は、誠にご愁傷様さまです。……久しぶりだね、公平くん」
「……うん。久しぶり、河原さん」
親父の事などどうでも良かった俺は、それだけ答えるニッコリと微笑む。
「ーーきゃあーーっ!!!」
ーーー?!!
突然聞こえてきた悲鳴に、何事かと騒ぎの方へと視線を向ける。
人など殆どいない受付の横で、なにやら一人の女性が騒いでいる。
「……ごめん。ちょっと、行ってくる」
「あっ……うん。また後でね」
(何なんだよ、一体……)
俺は面倒に思いながらも、河原さんを残して受け付けへと向かった。
未だに一人騒いでいる女性に近付くと、「猫が、猫が!」と地面を指差している。
その指先を辿って、少し先の地面へと視線を向けてみるとーー
ーーー!!
(っ、何だよこれ……っ)
頭から血を流して横たわる黒猫を見て、その気持ち悪さに思わずたじろぐ。
その顔は原型をとどめぬ程にグチャグチャで、見ているだけで吐き気がする。
(なんて最悪なんだ……っ。どうすんだよ、この死体。……俺が片付けなきゃ、いけないのか……?)
上から落ちて来たと言う女性の言葉に、目の前の大木を眺めると大きく溜息を吐いたーー。


0