歪ーいびつー【完】

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「ーー夢!」


 立ち去って行く夢の背中に向かって声を掛けると、ビクリと肩を揺らして立ち止まった夢がゆっくりと振り返った。
 その目には、今にも溢れ落ちてしまいそうなほどに涙が溜まりーー俺を見る瞳は、酷く怯えている。


(……っ。そんな顔を、させたい訳じゃない……)


 誰よりも可愛がり、甘えさせたいーー

 そう思うのに、男と繋がれた手を見ると悔しさと怒りで眼光が鋭くなる。


「……行こう、夢ちゃん」


 男はそう告げると、夢を連れて立ち去って行く。



 ーーこんなはずでは、なかった。

 昔からとても可愛かった夢は、当時からよくモテていた。高嶺の花すぎて声を掛ける者などほとんどいなかったが、それでも近付こうとする者も中にはいた。
 俺は常に夢の隣にいる事で、他の者を寄せ付けないよう徹底した。

 中学の頃までは、それで良かったーー

 ただの幼馴染だと皆んなわかっていても、俺が隣にいるだけで充分な牽制けんせいとなっていたのだ。

 夢の隣にいられるなら、俺もそれで良かった。
 夢の気持ちが、未だに涼にある事がわかっていたからーー俺も、無理にこの関係を崩そうとはしてこなかった。

 ただ、隣にいる内にいつか気持ちが俺に向いてくれる事を願ってーー

 それは、高校でも変わらないはずだった。
 朝は毎日夢と手を繋ぎながら登校し、帰りには教室まで迎えに行くと、周りに見せ付けるようにして夢の髪を優しく撫でる。

 夢に恋心を抱く男達は、ただ遠巻きにその光景を眺めているだけだった。

 だけどーーこの男は違った。

 【ただの幼馴染】という関係では、このまま夢を取られてしまう。そう、俺に思わせた。

 男と手を繋いだまま立ち去って行く夢の背中を見つめながら、鋭くなる眼光と共に握った拳を怒りで震わせる。


「……許さない」


 遠くなる2人の後ろ姿を睨みつけながら、俺はそう、小さく呟いた。






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