歪ーいびつー

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 風に揺れて、サラサラと揺れる少し色素の薄い綺麗な髪。ピンク色のワンピースを着て、ちょこちょこと歩く女の子。

 俺はその後ろ姿に向けてほんの少しだけ目を細めると、口元に薄く弧を描いてから口を開いた。


「ーー夢」


 俺の声に反応して、こちらを振り返った夢。
 その顔はとても愛らしく、まるで天使のよう。
 垂れ目がちの大きな瞳は、俺を捉えると優しくその形を変える。

 クスリと小さく声を漏らした夢は、「奏多くん、食材ありがとう」と言って、まるで花が咲いたかのような笑顔を見せた。



 ーー3年でクラスが同じになった事がきっかけで、仲良くなった夢。
 気が付けば、いつも側には夢がいた。

 あれから2年経った今でも、変わらず側にいる夢。
 
 気が付けば俺はーー夢を、好きになっていた。




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※※※






「ひゃっ……やぁぁー!」


 少し前を歩いていた夢が、突然叫び声を上げて後ろへ下がると、そのままよろけて尻もちを着いた。


「いやぁー……っぅ……こわい゛ぃぃ……ぅぅぅっ……おうちっ……かえりたっ……いぃぃ……ぅ……こわっ……いよっ……ぉぉっ……ヴっ……こわいっ……ぃぃ~っ……」


 我慢しきれなくなったのであろう夢が、転んだままその場で泣き始める。


「「「「「夢!」」」」ちゃん!」


 俺は急いで夢の元まで駆けつけると、うずくまる夢を抱き起こした。


「……ほら、夢。そんなところにいつまでも座ってちゃ駄目だよ」

「夢ちゃん、痛いところない?」


 心配そうに、夢の身体や手に付いた土や葉っぱを払ってゆく楓。


「夢……大丈夫?」

「こめん、夢。光につられて、虫が寄ってきたのかも。……夢、虫嫌いだもんね。ホントにごめん」


 心配そうに夢を見つめる朱莉と、その隣りで申し訳なさそうな顔をみせる涼。


「っ……ぅ……っ……こわっ……ぃぃ」

「ほらぁ……、夢。もう泣かないで? 怖くないから……ね?」


 怖がる夢をなだめるようにして、ハンカチで優しく涙を拭ってゆく優雨。


「皆んなで一緒に行くんでしょ?」


 少し落ち着きを取り戻したのか、優雨にそう言われた夢は涙を流しながらも小さく頷いた。


「夢……。本当に、大丈夫?」


 相変わらず、心配そうに夢を見つめる涼。


「大丈夫だよ、夢。俺がついてるから」


 俺はそう言うと、安心させるようにして夢の小さな右手を握った。


「じゃあ……こっちは俺ね? ……これでもう、怖くないね?」


 夢の左手を握った楓が、そう言って小首を傾げて顔を覗くと、躊躇ためらいがちに小さく頷いた夢。


「あと少しだから、頑張ろう。夢」


 優しい笑顔を向ける涼が、ポンポンと夢の頭を撫でてあげると、夢はポロポロと涙を流しながらも大きく頷いた。



「じゃあ、行こうか」という涼の言葉を合図に、改めて出発となった俺達。

 左隣りにいる夢をチラリと見てみると、グズグズと泣きながらも懸命に歩いている。
 その姿を目にした俺は、夢を守ってあげたいーーそう、強く思った。

 暫くすると泣き止んだ夢は、時折ビクッと肩を揺らして怖がってはいたものの……。
 その表情は、幾分か柔らかくなった気がする。

 俺はホッとしたのと同時に、そんな夢がただただ可愛くて、握っていた手にキュッっと力を込めた。


(ずっとずっと……俺がこうして、夢の側で守ってあげる)


 そう、思っていたのにーー


「ーー夢、おいで」


 そう涼に呼ばれると、夢は俺と繋いでいた手をなんの躊躇ためらいもなく離してしまう。


 そうして夢はーー

 俺の隣から、いつだって簡単にいなくなるんだ。





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