美少女は保護られる〜私の幼なじみはちょっと変〜

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「ーー花音、大丈夫?」


 私の顔を覗き込み、心配そうにそう訊ねる彩奈。

 酸欠で具合が悪くなったのと、恥ずかしくてあの場にいられなくなった私は、斗真くん達と別れると少し離れた場所へと移動した。

 花火会場からは少し離れてしまうけど、ここでも充分に花火は見えるはず。
 何より、人が少なくていい。

 実は、穴場スポットだったのかもしれない。


「……うん、もう大丈夫。ありがとう」

「動ける?」

「うん」


 ベンチに腰掛けて休んでいた私は、立ち上がるとお兄ちゃん達のいる方へと向かって足を進めた。

 目の前に見えるのは、場所取りをしてくれているお兄ちゃん達の姿。
 何やら、見覚えのない数人の男女と談笑している。


「……誰かなぁ?」

「さぁ……?」


 私の隣を歩いている彩奈は、お兄ちゃん達の姿を眺めながら首を傾げる。


(学校の友達かな……?)


 そんな考えを頭の中で思い浮かべた私は、そのままお兄ちゃん達の方へと近付くと、お兄ちゃんの背後でピタリと足を止めた。


「……お兄ちゃん」


 私の声に振り返ったお兄ちゃんは、私を視界に捉えると優しく微笑む。


「具合、良くなった?」

「うん。もう大丈夫」


 そんな返事を返しながら、お兄ちゃんの背後にチラリと視線を移すと、それに気付いたお兄ちゃんは口を開いた。


「学校の奴ら。今さっき、そこで偶然会ったんだよ」


 チラリと背後に視線を送ったお兄ちゃんは、そう告げると私と彩奈を皆に紹介してくれる。


「妹の花音と、その友達の望月彩奈さん」

「……あー! 知ってる、知ってる! 噂の妹ちゃん!」

「誰と付き合っても、妹優先するからフラれるって噂の?! あー……。まぁ、こりゃ確かに優先したくもなるわ」


 そう言って、ジロジロと私を見てくる先輩達。


(ていうか……。お兄ちゃんて、彼女いたんだ。全然知らなかったよ……)


「可愛いね〜。俺と付き合わない?」


 私の顔を覗き込む先輩は、そう告げるとニッコリと笑った。


(えっ?! 私……今、告白されたの? ……生まれて初めてだよ……っ、告白なんてされたの)


 人生初の告白に感動で小さく震えていると、突然横からグイッと肩を抱き寄せられる。


「……手、出したら殺すよ?」


 その声に頭上を見上げてみると、ニッコリと微笑むお兄ちゃんがいる。

 笑ってはいるけど……。その顔は、完全に鬼だ。
 背後には、なにやらどす黒いオーラまで放っている。


「お友達も可愛いね〜。俺と付き合わない?」


 今度は彩奈に告白する先輩。


(なんて、変わり身の早い人なんだろう……。私の感動を返してもらいたい)


「この子もダメだから」


 お兄ちゃんは空いていた左手で彩奈の肩を抱き寄せると、そう言って先輩から遠ざける。

 腕に抱かれて、少し俯き加減の彩奈の顔は……。何だか、微妙に赤い気がする。


(どうしたんだろ……? あっ。……鬼が、怖いのかな)


 チラリとお兄ちゃんを見上げると、そこにはやっぱり鬼がいた。


(怖いよね……。私も怖いもん。ごめんね……彩奈)


「ーー花音」


 突然呼ばれたその声に視線を向けてみると、そこにはニコニコと微笑むひぃくんがいる。
 その腕には何故か、見知らぬ女の人が絡みついている。


(……何、してるの……?)


 ニコニコと微笑みながら、私達の方へと向かって来ようとするひぃくん。
 それを、必死に引っ張って止めている女の人。
 よく見ると、とても可愛い人だ。


(……何だか……っ胸が、痛い)


 チクチクとしだした胸に、思わず顔を歪める。


(何っ、これ……。私、死ぬの……?)


「お……っお兄ちゃん……。苦しっ……私、死ぬ……っ」

「……えっ?!」


 お兄ちゃんの胸に顔をうずめて必死にそう訴えると、頭上からお兄ちゃんの焦ったような声が聞こえた。




 ーーそして再び、ベンチへ逆戻りした私。
 そんな私の隣では、彩奈が心配そうな顔をして私を見ている。


「花音……。大丈夫?」

「うん。何かもう、治ったみたい」


 俯いていた顔を上げてお兄ちゃん達の方を見てみると、心配そうにチラチラとこっちを見ているお兄ちゃんがいる。

 一緒に付いてこようとしたお兄ちゃんを制すと、私は彩奈と二人でベンチへ戻って来た。
 せっかく友達と楽しそうにしているのに、何だか連れ出すのは申し訳なかったから。

 チラリとひぃくんに視線を移すと、相変わらずその腕には女の人がくっついていた。
 その光景を目にした途端、何だかまた胸が苦しくなってくる。


「あ……っまた、胸が苦しくなってきた……。どうしよう……っ私、死ぬの……?」


 ひぃくんを見つめたままそう呟くと、私の視線を辿った彩奈が溜息を吐いた。


「ねぇ……。それって、響さんを見ると苦しくなるんじゃない?」


(す、凄いっ。何でわかるの? ……その通りだよ)


「うん……。っ苦しい、助けて……っ」


 苦痛に顔を歪めたまま必死に懇願すると、彩奈はそんな私を見て溜息交じりに口を開いた。


「それは、響さんのことが好きって事だよ。……花音のバカ」


 彩奈の言葉に、思わず顔が引きつる。


(そんな訳ないじゃん……。何、言ってるの? 酷いなぁ……バカだなんて……)


 引きつった顔でぎこちない笑顔を作ると、小さく笑い声を漏らす。


「あの女の先輩のことが、気になるんでしょ? 」

「……っ。うん」

「可愛いもんね、あの先輩」

「うん……」

「響さんの事、好きだよ。あの人」

「えっ……」


 彩奈のその言葉に衝撃を受けた私は、ひぃくん達から視線を逸らせないままその場で固まってしまった。


(あんなに、可愛い人が……。ひぃくんを……好き、なの……?)


「……あのまま、二人が付き合ってもいいの?」


 胸がズキズキと痛む。


(お願い……っやめて、彩奈)


「付き合っちゃうかもね? あの二人」

「やっ……やだっ!」


 今にも泣き出しそうな顔をして大声を上げると、そんな私を見た彩奈はクスリと笑った。


「……好きなんだね、響さんの事」


 私を見つめる彩奈は、そう告げるととても優しく微笑んだ。


(そっ、か……。私……ひぃくんの事が、好きなんだーー)


 素直にそう認めてみると、何だか胸の中が少しだけ軽くなったような気がする。


「……うん。……好き」


 そう小さく呟くと、私を見つめる彩奈はニッコリと微笑んだ。


「やっと自覚したね」


(でも……っ。自覚したからって、どうすればいいの?)


 私は彩奈から視線を外すと、相変わらず女のひぃくんと一緒にいるひぃくんを見つめた。
 やっぱりチクリと痛む胸に、ギュッとひよこを抱きしめる。

 ーーとその時。
 ひぃくんが、その女の人と一緒に歩き始めた。
 そのまま皆のいる場所から、どんどん遠ざかってゆく二人。


(え……っ。何処に、行くの?)


「告白かもね……」

「……え……っ」


(あの人と、付き合っちゃうの……? もう……ひぃくんと一緒に、いられなくなっちゃうの? ……そんなの、嫌……っ。絶対に嫌……っ!)


 そう思った私は、気付けばその場から勢いよく走り出していた。

 後ろで彩奈が私を呼んでいる声が聞こえるけど、それでも私は止まる事なく走り続ける。


(どこ……っ? どこにいったの……っ、ひぃくんっ!)


 人気のない場所で、必死にキョロキョロと辺りを見回す。


「ひぃくん……。どこにいるの……っ」


 中々見つけられないその姿に、心細さと悲しさで涙が出そうになる。

 今にも溢れ落ちてしまいそうな涙をグッと堪えると、胸元に抱きしめたひよこに顔をうずめるようにして俯く。


「ーー花音っ!」


 聞こえてきた声に反応して、勢いよく顔を上げてみるとーー
 私の視界に飛び込んできたのは、先程から必死に探し求めていたひぃくんの姿。

 とても焦った顔をみせるひぃくんは、すぐに私の元まで駆け寄ると心配そうに私の顔を覗き込む。


「……こんなところで、何してるの? 一人でいたら危ないよ?」

「ひぃくん、探してたのっ……。嫌……っ」


 小さく呟くようにして声を漏らすと、そのまま目の前のひぃくんにしがみつく。
 そんな私を優しく抱きとめてくれたひぃくんは、まるで私をあやすかのようにして優しく頭を撫でてくれる。


「花音。どうしたの? 嫌って、何が嫌なの?」


 ついにグズグズと泣き始めてしまった私に、「泣かないで」と優しく声を掛けながら涙を拭ってくれるひぃくん。


「ひぃくん。いなくなっちゃ、嫌ぁ……」

「大丈夫だよ、いなくならないよ?」

「私っ……ひぃくんが好きなの……。ずっと、一緒にいたい……っ」


 思いのままにそう伝えると、私の頭を撫でていたひぃくんの手がピタリと止まった。

 抱きしめられていた身体をゆっくりと離されると、私と目線を合わせたひぃくんがニッコリと微笑む。


「……花音。もう一回言って?」


(……どこを?)


「一緒にいたい……」

「んー違うよー。花音、そこじゃないよ?」


 小首を傾げてニコニコと微笑むひぃくん。


(もしかして……。好きって……ところ? むっ……ムリムリムリッ! 恥ずかしすぎるもんっ!)


 チラリとひぃくんを見てみると、ニコニコと微笑みながら私の言葉を待っている。


(どうしてまた、言わなきゃいけないの……。何でちゃんと聞いててくれないのよ……、ひぃくんのバカっ)


「……好き……っ」


 真っ赤になりながらもポツリと小さな声を溢すと、とても嬉しそうな顔をしてフニャッと笑ったひぃくん。

「俺も、花音のことが大好き〜」


 幸せそうに微笑むひぃくんにつられて、思わずクスリと笑みが漏れる。



 ーーードンッ



 突然聞こえてきたその大きな音につられて、視線をすぐ横へと移してみるとーー。
 ヒュルヒュルと空高く打ち上がった光が、パッと綺麗な花火を咲かせた。


「花火……」

「始まっちゃったねー」


 木々の隙間から覗く花火を眺めながら、隣に並ぶひぃくんの浴衣の袖をキュッと掴む。


(花火……。ひぃくんと一緒に見れて、良かった)


 毎年一緒に見ているはずなのに、何故か今年の花火だけは特別に思える。


「……花音は、俺の大切なお嫁さんだからね」


 花火から視線を移すと、とても優しい笑顔を向けるひぃくんと視線が絡まる。


「……うん」


 私の返事にフワリと優しく笑ったひぃくんは、私の頬に静かに両手を添えると、そのままゆっくりと唇を重ねた。

 私の腕の中にいるひよこが、地面へと向かってポトリと落ちてゆくーー。


(えーーーー)


 そっと触れるだけのキスをしたひぃくんは、私から離れるとニッコリと優しく微笑む。


(私……。今、ひぃくんとキス……。キス……、しちゃった……)


 そう認識した途端に、一気に熱の上がり出した私の顔。
 きっと今、物凄く真っ赤だと思う。

 恥ずかしさから顔を俯かせると、下に落ちたひよこを拾い上げたひぃくん。
 パンパンと軽くその場で汚れを落とすと、ひよこを差し出してニッコリと微笑む。


「……はい。おっぱい落ちたよ?」


(……。……クッションだよ)


 こんな時でさえ、いつもと変わらないひぃくん。

 すっかりおっぱいが名前みたいになってしまったひよこを受け取ると、私はニコニコと微笑むひぃくんを見つめた。

 ちょっぴり変なひぃくん。
 きっと、これからもそれは変わらない。


 ーーだけど、そんな君が大好きです。






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