美少女は保護られる〜私の幼なじみはちょっと変〜

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※※※



「花音ちゃん!」


 突然呼ばれた声に振り返ると、いつぞやの何とか君。


(えっと……。確か名前は……山崎くん、だったかな? 確かお兄ちゃんが、危ないって言ってた気がする……)


 それを思い出した私は、何が起こるのかと身構える。

 ポケットに手を入れた山崎くん。
 その行動を、ビクビクしながら見守る。


「……これ。良かったら、一緒に行かない?」


 突然差し出された何かに思わず目をつぶってしまった私は、ゆっくりと目を開くと恐る恐る目の前を見た。

 ニッコリと微笑む山崎くんの手元には、ヒラヒラと揺れる細長い紙切れが……。


「……あっ! これ、行きたかったスパ!」


 差し出された山崎くんの手をガシッと掴むと、その手に握られたチケットを覗き込む。

 ここは今話題の、最近出来たばかりの巨大スパ。
 中には色んな施設が揃っていて、岩盤浴や温泉やプールがあって、施設内は全て水着で移動できる。

 勿論、飲食店も色々あって、一日中いても楽しめる。夢のような施設だ。


「あっ、あの。花音ちゃん……」


 頭上からの声に視線を上げると、山崎くんの顔が何だか少し赤い。


(熱でもあるのかな……?)


「二人きりじゃあれだから……。お互い、友達でも誘って行かない?」

「うんっ! 行きたい!」


 笑顔で答えると、山崎くんは一度ホッとした様な顔を見せると笑顔になる。

 その後、お互いの連絡先を交換した私達はそのまま廊下で話していた。

 お兄ちゃんは危ないって言ってたけど、今目の前で話している山崎くんは全然危ない人には見えない。


「花音ちゃん。俺の事は、斗真って呼んでくれると嬉しいな」

「うん、わかった。斗真くん」


 私がそう言うと、嬉しそうに微笑む斗真くん。


(お兄ちゃん。斗真くん、凄くいい人だよ……)


 そんな事を考えていると、突然後ろから肩を掴まれて私の身体が反転させられた。


 ーーー?!


 何事かと驚いていると、目の前にはいつの間に来たのかひぃくんの姿が。


(あぁ……。なんだか、またデジャヴが……)


 不安が頭をよぎった時、目の前のひぃくんが口を開いた。


「花音! 初めては……っ。花音の初めては、俺に捧げてくれたのに……っ!」


 大きな声でそう言ったひぃくんは、瞳を潤ませるとメソメソと泣き出した。


(泣きたいのは私だよ、ひぃくん……)


 ひぃくんの放った言葉に、騒然とする廊下。


(あぁ……。今すぐ、この場から消えたい……)


 私の腰あたりに抱きついて、メソメソと涙を流すひぃくん。
 私はそのつむじを見つめながら、ただ、呆然と立ち尽くすのだったーー。





 ※※※





 隣で、ニコニコと嬉しそうにお弁当を食べているひぃくん。

 私はそんなひぃくんに向けて口を開いた。


「ひぃくん。さっきのあれ……何?」


 メソメソと泣くひぃくんに連れられ、屋上へとやってきた私。
 すっかりとご機嫌になったひぃくんに対し、私は未だにさっきの事を引きずっていた。

 怨めしい気持ちでひぃくんを見つめる。


(あの時、私がどんなに恥ずかしかったか……)


「え? だって……。花音が、スパに行こうとしてたから……」


 スパに行くのと、さっきの発言に何の関係があるのか……。
 私にはサッパリわからない。

 ひぃくんの思考を読み取るのは、一生無理なのかもしれない。


「それと、あの発言に何の関係があるの?」


 小さく溜息を吐くと、呆れながらひぃくんを見る。


「忘れちゃったの?! 花音!! 俺に初めてを捧げてくれたのに……っ!」


 ひぃくんの言葉に、お兄ちゃんの眉がピクリと反応する。
 そしてゆっくりと視線を動かすと、そのまま私を捉えた。


(えっ……。お、お兄ちゃん……私を見ないで。私だって、意味がわからないんだから……)


 思わず顔が引きつる。


「花音! ……っ花音の公園デビューは、俺に捧げてくれたでしょ?! 忘れちゃったの?!」


 私の肩をガッチリと掴んで、ユサユサと揺らし始めるひぃくん。


(あぁ……もう、嫌だ……。何て紛らわしい言い方をするんだろう……この人は。初めから、そう言ってくれればいいのに)


 私の身体を揺らすひぃくんを見ると、泣きそうな顔をして私を見つめている。


(だから、泣きたいのは私だよ……ひぃくん)


 ひぃくんの言葉で、あらぬ誤解を受けたであろう私。

 何で普通に話せないんだろう。
 やっぱりひぃくんはちょっと変。

 ガクガクと揺れる頭で、そんな事を考える。


「ーースパって、何?」


 私達の会話を黙って聞いていたお兄ちゃんが、ひぃくんの腕を引っ張りながらそう尋ねた。


「さっき、廊下で話してたんだよ……男の子と。……ねぇ。花音の初めては、俺に捧げてくれるでしょ……?」


 お兄ちゃんをチラリと見たひぃくんは、再び私に視線を向けるとそう言った。

 さっきの発言からすると、初めてスパに行くのはひぃくんと一緒にって意味なんだろうけど……。


(何で、そんな変な言い回しをするの? わざとなの?)


 目の前で瞳を潤ませるひぃくんを見て、思わず溜息が出る。


「それは無理だよ、ひぃくん。もう、約束しちゃったから」


 そう告げると、見開いた瞳のまま固まってしまったひぃくん。


「花音。男と一緒に行くのか?」

「えっ……? あ、うん。何人かで行くんだよ」


 お兄ちゃんからの質問に、ひぃくんをチラリと横目で見ながら答える。


(ひぃくん、大丈夫かな……?)


 ピクリとも動かなくなってしまったひぃくん。
 そんなひぃくんを少し心配しながら、お兄ちゃんの方へと視線を移す。


「ダメ」

「へっ……?」

「危ないから、行ったらダメ」


 素っ頓狂な声を出した私に、再度ダメだと告げるお兄ちゃん。
 驚いた私は、一瞬固まってお兄ちゃんを見つめる。

 すると突然、固まったまま動かなかったひぃくんが大声を出した。


「花音っ!!」


 ーーー!?


 ひぃくんに抱きつかれ、ゆっくりと倒れてゆく身体……。

 気付くと私は、ひぃくんに押し倒されていた。


「花音……っ。花音……っ」


 私を抱きしめ、胸元でスリスリと顔を動かしながら涙を流すひぃくん。

 突然の出来事に、呆然とする私。

 ゆっくりと視線を下へ向けると、そこにはひぃくんのつむじが見える。
 その更に下の方へと視線を移すと、私の胸元で泣いているひぃくんが。

 私の胸元で……。
 胸……元……。


「っ……いやぁーーっっ!!!」


 私の叫び声で、呆然として固まっていたお兄ちゃんが慌てて動き出す。

 お兄ちゃんが離そうとしても、中々離れないひぃくん。

 私の胸元でシクシクと泣くひぃくんを見つめ、私は思った。


(そんな事で泣かないでよ……。ひぃくん、鼻水垂れてるよ。あぁ……私の制服に、ひぃくんの鼻水が……)


 何だか急に阿呆らしく思えてきた私は、その場をお兄ちゃんに任せて身体から力を抜くと、ただジッと、目の前の光景を眺めたーー。




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